張り子の虎、ニッポン?


三重県立みえ夢学園高等学校

                   平山 欣孝

                        hirayama@mint.or.jp


はじめに
 2000年7月23日に名古屋で開催された高校生の国際会議「ワールドユースミーティングイン名古屋2000」で夢学園高校の生徒は台湾の生徒と社会問題について国際比較をしたものを共同発表しました。今回の企画は、海外の生徒と日本の生徒が互いの先入観などをメールやホームページそしてテレビ会議などを使って共同で国際比較してそれを共同で発表するという高度なものでした。

 

国際共同作業
 夢学園の生徒も、一連の国際交流の舞台を与えていただいたおかげで、昨年のソウルでの発表や、英語教員を対象とした「達人セミナー」でも臆せず発表するような経験豊かな生徒に育ってきました。しかし、今回ばかりは、戸惑ったようです。「自分の考えをパワーポイントでまとめるだけなら、正直言って前日にちょこちょことやってもできることはできるが、今回の場合は、相手の意向との調整があるから、どのようにまとめたらいいかわからない」と言っていました。いろいろなML(w2000seとw2000sだけでなく、福井商業の田嶋先生の作ってくれた台湾ー日本のML)で大量のメールが活発に交換されました。今年の特徴としては、フリーのメールアドレスを個々に取って使ったり、インターネット環境がよくなったり、自宅からも送受信している生徒が増えたので、一日中どの時間帯でも生徒のメールが動いているという感じを受けました。すでに夏休みに入っていた台湾の生徒も自宅からのインターネット接続で、返事がとても素早いのが印象的でした。芸能人や趣味の話でにぎやかで、日本人の生徒の名前は、マキやユウコなど複数の生徒が同じ名前であることもあり、学校名やグループ番号を書くのが定着するまでは、メールの数が多くて、英語のメーリングリストに日本語で書く生徒もいて、誰が誰だか何が何だか分かりづらく、共同作業の打ち合わせのメールは埋もれてしまうこともあり、少々混乱気味でした。

 

テレビ会議で打ち合わせ
 それを整理するために毎週の国際テレビ会議(1回が約2時間)で、相手の考えなどを探っても、ワールドユースミーティングで提示できそうなものがなかなか定まらず、あせりを感じました。7月7日のテレビ会議では、員弁高校との打ち合わせや、7月14日に

は福井商業の田嶋先生と生徒さんが夢学園までに来てもらって台湾側に、日本の準備したプレゼン資料を提示しました。また7月18日には員弁高校にも来てもらって、台湾のプレゼンを提示してもらって、どのように組み合わせるか調整を行いました。夢学園のテレビ会議システム(フェニックス)を使い、それぞれの発表内容を台湾と打ち合わせました。それまでのメールは散漫な内容で相手も不特定多数であったように思いましたが、これらのテレビ会議でプレゼンの内容を共同でプレゼンする相手の生徒と顔を見ながら検討しコミュニケーションをはかったおかげで、徐々に内容・相手とも特定になる方向で絞られてきた。テレビ会議で台湾の生徒の意向を探ることは、もちろんその後の活動に役立ったが、日本の生徒同志も、発表の内容については悩んでいたので、お互いにアイデアを出し合って相談したことも、その後の活動に役立ちました。

 

テーマの決定

このような事前の打ち合わせにより、台湾の15人の生徒を3班に分けて、福井商業と組んだ第1グループは日常生活について、員弁高校と組んだ第2グループは学校生活について、そして夢学園と組んだ第3グループは社会問題について、プレゼンの内容が徐々に整理されてきた。交換された大量のメールの中には、「暑いですね?」という話題から「エアコンの設定温度」などお互いの国でのエコロジカルな取り組みが話題になり、それをプレゼンに使おうという自然な成り行きで利用できた話題もありましたが、社会問題として、ボランティアを題材として焦点を絞っていた台湾に対して、夢学園では、公共の場所でのタバコや酒の自動販売機、それに宗教の問題などを取り上げようかという案もあり、紆余曲折がありました。互いの国を比較するだけでなく、内容をうまく結合し、そこから誤解が見えてくるようにと思い苦心しました。

 

新たな発見、張り子の虎

ワールドユース当日、台湾ユニットの3グループの発表を見ながら、私は日本と台湾との比較で重大な発見をしました。それは、「日本は張り子の虎」ではないかということです。SONYやトヨタなど企業の活躍で、日本はとても進んだ国だと海外から思われているのでしょうが、それは誤解であり、日本は、IT革命だけでなく、社会的な認識など、いろいろな面でかなり遅れているのではないかという発見です。

例えば福井商業の発表資料にあるように、家庭でのPC所有は、台湾の生徒は100%であり、逆に100%だと思われていた日本の生徒が50%程度しか所有していないことを知り驚きました。

社会問題を取り組んだ夢学園と台湾の発表にあったように、公共の場所での喫煙は、台湾ではすべて禁止であり、列車も喫煙席は無く、すべて禁煙列車であるとのことにも驚きました。逆に、日本では学校でさえも分煙機があり、タバコの臭いがくさくて使えないと生徒に言われる部屋がいろいろあります。タバコの自動販売機なども問題であり、海外の方はとても驚きます。プレゼンの準備として生徒がALTに聞いたのですが、「十代の若者が、若気のいたりで吸うのはしかたかいが、日本ではいい年した分別のある20代30代の人が吸っているのが不思議だ。」ということでした。青少年の健康と金儲け(教師のわがまま?)のどちらを優先するのか、この件に関しての世界標準とは何でしょうか?いろいろ考えさせられました。

男女の社会的立場を比較するための指標として、内閣の女性閣僚の数を比較してみました。女性閣僚は日本が2人に対して台湾では9人であることなど、台湾は日本より女性の社会進出が進んでいるのかもしれません。ここの部分では、プレゼンをする台湾の生徒と夢学園の生徒が、会場の聴衆に「何人だと思いますか?」と問いかける場面もあり、聴衆とのインタラクティブな場面として、よかったのではないかと思います。

まとめのコメントで台湾の生徒が「台湾はいろんな面で日本に追いつきました。」と述べましたが、それは遠慮してくれたような感じがあり、実際は「台湾は日本を追い越しました。」と思ったに違いないという感触を得ました。


日本の常識、世界の非常識
 日本に来て見たら「張り子のトラ」だったというのが正直なところではないでしょうか?森首相もIT革命などを口にしますが、日本の遅れは、海外との接触があれば、当然身にしみるわけで、政府中枢もその危機感はあるのだと思います。IT革命でも遅れている日本だということですが、タバコ問題の取り組みや女性の社会進出においても、いろいろ遅れていると思います。アメリカへ1年留学していた先生が「アメリカではタバコの臭いをかいだことが無い。」と言っていました。それほど公共の場所での禁煙が徹底しているのでしょう。昨年のワールドユースでもオーストラリアのジェシカが、日本のタバコ対策の遅れを指摘しました。8月4日の中日新聞によると「日本たばこ産業がWHOの取り組みを妨害したとしてWHOから告発をされた」と報道しています。横山ノック知事のセクハラ訴訟も、日本における女性の社会的位置について考えさせられます。千葉すずがオリンピック出場選考についてCASへ提訴したことで、日本のあいまいさや閉鎖性が国際舞台で審判を受けました。日本の常識は、もはや、世界で通用しないどころか、世界の非常識となっているのではないでしょうか?

 

まとめ
 国際交流と言うと「給食を食べてもらって、体育館で盆踊り」というコメントを国際理解教育に熱心に取り組まれている多田孝志先生(目白学園中・高等学校)の講演で聞いたことがありますが、その批判は正しいと思います。その多田先生は、きれいごとばかりの国際理解教育ではなく、お互いに利害の対立するような相手と議論を闘わせてこそ、真の理解者になれるというような発言をされましたが、まったく、そのとおりだと思います。私たちは、国際交流を通じで、早く「張り子の虎」に気づく必要があると思いました。もしかすると、気づいていないのは、日本人だけで、すでに、海外からはそう見られているのかもしれません。知らないのは、日本人のおごりなのかもしれません。

 今回の共同発表を準備している時に、生徒達が「一部の人しか使わないタバコの分煙機が税金によって賄われていること」に疑問を感じたようで、そのこともプレゼンの中に入れましたが、生徒の見る目も社会の認識も変化し、世界情勢も変化しており、いま「開かれた学校」を実現することが求められています。

きれいごとや耳に心地よい話ばかりではなく、時には、耳の痛くなる本音の話をすることのできる友達がいることはすばらしいことです。インターネットの教育利用が実社会との遊離をもたらし青少年の成長に有害であるかのごとく論調が以前はありました。確かに、文部省も述べているように「オタク教師」ではいけないでしょう。生徒達もインターネットを「オタク趣味」で終わらせず、ツールとして使い世界に友達を求め互いに啓発し合い、その結果、社会変革の一翼を担うことの意義は誰も否定できないはずです。それが国際社会で生きるこれからの若者には必要だと思います。インターネットの発達で、私たちは、否応なくそういう国際社会と対峙しなくてはならなくなってきているのです。もはや「井戸の中の蛙」ではすまない時代です。これからの、国際交流はそういう視点が必要だと強く感じました。今回のテーマ「誤解から理解へ」を探ったワールドユースミーティングには、考えさせられることが多く、生徒も教師も大変貴重な経験をさせていただきました。

Back to index