DoG vs Barbarians
15-3

日本のチームそれも日体大と当たるということで試合前日は個人的に気になっていた。チームメイトに「楽しみか」と聞かれたが,「あんまり楽しみではない。けっこうやると思う」と答えた。実際に日体大のディフェンスはRed Lightsなどの強豪に対しても効いていたし、失うものがないというチャレンジャーになったとき奴等がめっぽう力を発揮するということはもう何年も前からよく知っている。 2年前の日体大も,まだまだ若いチームで,ゾーンをやっておけば大丈夫と思っていたら,大会を追うごとに成長し,最後はアメリカのゾーンも破るほどになっていた。Miami Refugeeとの試合は今でもよく憶えている。今年の日体も緒戦でロキートスのゾーンにまんまとはまって予選落ちの危機だったにも関わらず,土壇場でPool1位シードのRed Lightsを大差で破って生き残ってきただけに勢いが感じられた。だからあんまりやりたくなかった。下手したらけっこう競るかもしれないなとも思っていた。 もちろんDoGの中にそんなことを考えていたものは一人もいなかったわけで,JimとJordanはゴルフに行ってしまっていなかったし、皆既日食を見る相談をしていたりと,朝のこの試合に注意を払っているものは僕くらいのものだった。 予選のいつもの試合と同じように,30分前から軽いジョグとスローをしてそのまま試合に突入した。 最初のプレーで簡単にDOGが点を入れた。ManからBuddyへパスは3本だったと思う。低いロングだったのでカットするチャンスだったと思うがうまくすり抜けて得点になった。あまりに簡単な出だし。日体が得意のディフェンスを見せる暇もなく,DOGがゾーンをしかける。簡単なスローをミスし連取。ゾーンの時のターンオーバーはとにかく素早い。人を見つける前に得点してしまっている,そんな感じ。あっというまに点差が開く。ゴール前でミスをしては得意のディフェンスも意味がない。ゾーンはパパーとウィング,ディープがきっちり抑えられているので狙う場所が見つからない。そうしてカウントがつまるとカップがハンドラーを抑えにかかる。ほとんど人についているような感じだ。自然にそういうプレッシャーがかかる。ミスが重なる。日本ではゾーンで風がないときにこれほどプレッシャーがかかることはまずないだろう。カップはスローワーがハンドラーへのパスコースを探そうとしたのを見ると( カウントがつまってダンプパスを狙ったとき),さっとハンドラーにプレッシャーをかける。カップの形が崩れてマンツーマンに見えることもしばしばだ。ディスクを持っている選手はカウントが詰まることを極端に恐れるようになる。日体大だけでなくどのチームに対してもこのゾーンは効いていた。巧みにマンツーマンと使い分けるのでいつ仕掛けてくるかわからない。 日体もタイトなマンツーマンで何とか活路を見いだそうとしていたが、結局止めきれなかった。DOGのオフェンスは他のアメリカチームに比べると堅実でミスが少ない。冒険をほとんどしないかわりに,確実に相手のミスを得点につなげる。たとえゲインがなくてもスイングして速いパス回しで相手のディフェンスが崩れるのを待ち,機を見て裏へ決定的なパスを出す。パス回しが速すぎるのと,ハンドラーが詰まった局面を打開するパスを持っていることで,ほとんど日体大のディフェンスにブロックのチャンスを与えなかった。ただかなりゴリ押しなゴール前のプレーにはさすがに日体も厳しいチェックをしていた。しかし身体が大きいため前に入ることができず,日本人相手ならブロックできそうな所を身体で押しきられてしまったという場面も少なくなかった。 今大会でもっとも日体大が力の差を感じたゲームではなかっただろうか。常にDOGは余裕を持ってパスを回していたし,ハンドラーがほとんどいないDチームの時も危なげなく点をとっていた。

日本のオフェンスとの違いは,パスのタイミングの早さが一番だ。アイソレーションを使っているので,スローワーはターゲットをよく見て投げることができるし、レシーバーがスピードに乗った瞬間にパスを通すことができる(たとえ投げる瞬間にレシーバーが抜け切っていなくてもパスを投げてくる!)。これは日本では見られない。日本で足に自信を持っている選手は,レシーバーを「泳がせ」てブロックを狙うということをしばしばやる(自分もときどきやる)が,アメリカ相手には通用しない。泳がせる余裕とは,スローワーが投げるタイミングが遅いことで生まれるわけで,泳がせている距離があればアメリカのスローワーは矢のようなスローをすぐに通してくる。自分がスピードに乗る前にパスが通ってしまっているわけだ。

あと,局面で追い詰められても,ハンドラーが脱出するスローを持っていることも大きい。ハンマー(アップサイドダウン),スクーバなどちょっとリスクがあるように思うスローを難なくピンポイントで通してくるので守るレンジがかなり広くなる。そして脱出した後の展開が素早いので局面で粘っていただけに大きく崩れてしまうこともしばしばだ。

あっという間に終わってしまった試合だったけれど,自分にとって考えさせられることの多い試合だった。客観的にいろいろ見えた気がした。日本の学生アルテは年々レベルが上がっているけれど,日体を脅かすチームがないということは彼らにとって不幸なことだと思う。身体能力でやられていると多くのチームが考えている限り,日本のアルテは進歩しないと思う。日体は試合を追うごとに,「うまく」なっていたしいろいろ学んでいたと思う。彼らの学習能力の高さには本当にいつも驚かせられるし、他のチームがそれ以上に努力しないとキャッチアップできないのは明らかだ。ここに書いたことが,各チームにとって参考になればいいなと思う。能力ではなく,意識の違いで変わる点がいかに多いか実感した試合だった。ただそれは,チーム全体ができていなければいけないという点で,個人の能力を上げる努力よりももっと難しいものになるかもしれない。とは言え,チームワークで勝っていない限り,いったい何を土台に運動能力に優れたチームに勝とうと言うのだろう。